タリバンによるアフガニスタン制圧から1年、この間に在アフガン大使館やJICAで働いていた現地職員と家族の他、元日本留学生など計820人が日本に避難しているが、そのうちの大使館関係者98人が難民認定を受けたというニュースが共同通信から流れた。昨年の難民認定総数74人をアフガンだけで上回るが、まだ増えるだろう。
タリバンの支配の過酷さと、状況に改善の見通しがないことを考えると、退避者の多くは難民条約にいう難民の定義に当てはまるだろうから、今回の認定は極めて妥当だが、今までとは違う認定の速さと規模には驚く。2001年の9/11の同時テロの後、入管が、長年にわたって人種的・宗教的に迫害されてきた少数民族ハザラ人8人を含む9人のアアフガン難民申請者を検挙して、強制送還しようとして大問題になったことを思い起こせば、隔日の感がある。
今回の認定は、対象が在アフガン大使館現地職員に限られている点でやや特殊だが、ミャンマーやウクライナへの対応と並んで、日本の難民保護制度と運用が変わりつつあることを示すように見える。その背景と影響の解明はこれからだが、影響については次のことは言えよう。まず、この一斉認定が先例となって「難民鎖国」イメージも変わり、強権支配や暴力で弾圧をする国から逃げる難民が、日本に来て難民認定申請をすることが次第に増えるだろう。また、入管法の改正論議にも影響するだろう。長期収容問題の一つの原因は難民認定制度にあるが、今回の一斉認定は制度と運用が改善していることを示しており、今後は多数の長期収容は減ると思われるからだ。最後に、「人種差別的にウクライナ避難民だけを優遇している」といった批判は根拠を失う。アフガン人はヨーロッパの白人ではないし、難民認定者は在留期限5年(延長可)の「定住者」資格を得るので、在留期限1年(延長可)の「特定活動」資格だけのウクライナ避難民より安定した法的地位を得るからだ。
なぜこのような展開になったかの背景についても、ミャンマー難民やウクライナ避難民を含めた考察が必要だが、いくつか指摘はできる。第1に、昨年来のミャンマー国軍クーデター、タリバンのアフガン制圧、ロシアのウクライナ侵略という国際的事件が続き、かつ、その中での激しい迫害状況が大手メディアだけでなくSNSでも即時に映像で広がるようになっている。20年前には考えられなかったことだが、これらの出身国情報が、日本政府に人道的対応を取ることを迫るとともに、本国に送還されたときの客観的な迫害の蓋然性を判断するために使われるようになったことがある。
第2は、入管庁が策定中の(たぶん既に使われている)「難民認定ガイドライン」において、迫害の定義や迫害の蓋然性についての判断が以前より弾力化し、迫害の恐れの認定がされ易くなっていると思われること。過去10年間、制度の不透明さや誤用・濫用などで混乱が続いたが、並行して、出入国在留管理政策懇談会の下で、「難民認定ガイドライン」の策定や「補完的保護」制度の導入、出身国情報制度の拡充などが進んだ。日本の難民制度はようやく機能するようになったのだ。
第3は、アフガン退避者だけでなくウクライナ避難民のことなども毎日のように報道され、難民や避難民の受入れに対する国民の意識(支持)も高まってきていると思われること。
そのほか、内閣に人権問題担当総理補佐官のポストを設けるなど、政府の人権問題に対する姿勢が変わってきていることや、特定技能制度導入などで政府が外国人労働者の大量受け入れを開始し、政府(入管)は秩序だった難民の受入れに自信をつけていることなどもあろう。
今回のアフガン退避者の一斉認定は、孤立した出来事でなく、上記のような一連の多角的な動きの中での展開として捉えることができる。
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